新規事業の進め方 — 大企業のための実践ガイド
新規事業の進め方を検索する人は、大きく2つに分かれる。
「アイデアの出し方」を知りたい人。 「アイデアはあるが、そこから先の進め方」を知りたい人。
この記事は後者向けだ。
大企業の新規事業が止まる理由は「アイデアがない」からではない。 「アイデアから事業判断までの道筋」が見えないからだ。
アイデアソンで100個のアイデアを出した。 3つに絞った。 だがそこから半年が過ぎても、Go / No-Go の判断が出ない。
→ 大企業の新規事業が進まない3つの構造と、6週間で動かす方法
この記事では、大企業の制約(稟議・ブランド・人事異動)を踏まえた上で、アイデアから事業判断までの全体フローを書く。
全体フロー
Phase 1: アイデア整理(2-4週間)
↓
Phase 2: 仮説検証(6-8週間)
↓
Phase 3: 事業判断(Go / No-Go / Pivot)
↓
Phase 4: 事業化準備(判断後)
全体で3-4ヶ月。 「アイデアがある」状態から「事業化するかどうかの判断が出る」まで。
Phase 1: アイデア整理(2-4週間)
やること
アイデアを「検証可能な仮説」に変換する。
アイデアと仮説は違う。 「○○で困っている人がいるはず」はアイデア。 「製造業の事業開発部長は、PoC後の事業判断データが不足しており、月20時間をその対処に費やしている」は仮説。
仮説は検証できる。アイデアは検証できない。
具体的なステップ
1. 顧客仮説を定義する
「誰が」困っているのか。
- 業界: 製造業 / IT / 金融 / etc.
- 役職: 事業開発部長 / 新規事業マネージャー / etc.
- 状況: PoC後 / アイデア段階 / 稟議前 / etc.
ターゲットは絞る。「すべての企業」ではなく「従業員1,000人以上の製造業の事業開発部門」。
2. 課題仮説を定義する
「何に」困っているのか。
- 事業判断のためのデータが不足している
- PoCを繰り返しているが成果が出ない
- 稟議に必要な根拠が揃わない
課題は複数あっていい。検証で「どれが一番深いか」を確認する。
3. 解決策仮説を定義する
「どう」解決するのか。
この段階では詳細な仕様は不要。 「6週間で顧客インタビューとプロトタイプ検証を行い、事業判断レポートを出す」程度の方向性。
4. 検証すべき問いを設定する
仮説検証で確認すべき「問い」を3-5個に絞る。
例:
- この課題は本当に存在するか(課題仮説の検証)
- 顧客はこの課題にどのくらいの時間・お金を費やしているか(深さの検証)
- この解決策に支払い意欲があるか(解決策仮説の検証)
Phase 2: 仮説検証(6-8週間)
ここが本丸。アイデアを「事業判断」に変えるフェーズ。
Week 1: 仮説整理ワークショップ
チームで仮説を精緻化し、検証計画を策定する。
決めること:
- 検証すべき仮説(3-5個)
- Go条件: 何がわかったらGoするか
- No-Go条件: 何がわかったら撤退するか
- Pivot条件: 何がわかったら方向転換するか
終了条件を検証前に決めることが重要。 検証後に決めると、結果に合わせて条件を変えてしまう。
Week 2-3: 顧客インタビュー
ターゲット顧客3-5名に、課題の深さを確認する。
聞くこと:
- 今、その課題にどう対処しているか
- その対処に月どのくらいの時間・お金をかけているか
- 他に検討した方法はあるか
「どう思いますか」ではなく「今どうしていますか」を聞く。 過去と現在の事実を聞く。未来の意見は聞かない。
対象者のリクルーティング:
BtoBの場合、ビザスクやuniiリサーチで最短1週間。 自社の既存顧客にアプローチする方法もある。
Week 3-4: プロトタイプ制作
インタビューで確認した課題に対する解決策を、プロトタイプにする。
生成AIを活用すれば、3-5日で「触れるレベル」のプロトタイプが作れる。 製品品質は不要。顧客が反応できるレベルで十分。
プロトタイプを作る前にインタビューをすること。 インタビューなしでプロトタイプを作ると「自分たちが作りたいもの」を作ってしまう。
Week 4-5: ユーザー検証
プロトタイプを顧客に見せて、反応を確認する。
確認すること:
- このプロトタイプの何に反応したか(機能、体験、価格)
- 「これがなくなったら、どうするか」(依存度)
- いくらなら払えるか(支払い意欲)
5名中3名が「金を払う」と言えば、Go判断の根拠になる。 全員が「便利そうだけど今のやり方で十分」なら、No-Goの根拠になる。
Week 6: 事業判断レポート
6週間の検証結果を、事業判断レポートにまとめる。
レポートの構成:
-
エグゼクティブサマリー(1ページ)
- 判断: Go / No-Go / Pivot
- 根拠の要約(3行)
-
検証結果
- 顧客インタビューのインサイト
- プロトタイプに対する反応
- N1分析(1人ずつの深い分析)
-
判断根拠
- 事前に設定したGo/No-Go条件との照合
- 代表的な顧客の発言引用
-
次のアクション
- Goの場合: MVP設計の方向性
- No-Goの場合: 学びの整理と次の検討テーマ
- Pivotの場合: 新しい方向性の仮説
Phase 3: 事業判断
Go: 事業化に進む
検証で「顧客が欲しい」「支払い意欲がある」と確認できた。
次のアクション:
- MVP(最小限の製品)の設計
- 事業計画の策定
- 追加の定量調査(必要に応じて)
Goの判断が出た後にPoCを行い、技術的な実現可能性を検証する。
→ PoCと仮説検証の違い — 新規事業で本当に必要な検証とは
順番は「仮説検証 → PoC」。逆ではない。
No-Go: 撤退する
検証で「課題が浅い」「支払い意欲がない」「既存代替で十分」と確認できた。
No-Goは失敗ではない。 「6週間・150万円で、3,000万円の投資判断を回避できた」。
学びを文書化し、次の事業開発に活かす。
Pivot: 方向転換する
検証で「当初の仮説とは異なるが、別の方向に可能性がある」と確認できた。
例:
- 想定と異なるセグメントにニーズがあった
- 課題は存在するが、解決策の方向性が違う
- BtoB想定だったが、BtoCの方が可能性がある
Pivotの場合、新しい仮説で再度検証スプリントを行う。
Phase 4: 事業化準備(Go判断後)
Go判断が出たら、以下に進む。
デザインスプリント(5日間)
プロダクトのUI/UX方向性を検証する。 仮説検証スプリントで「やるべき」と決まった後の「どう作るか」の検証。
MVP設計
検証で確認できた「顧客が最も反応した機能」を中心に、最小限の製品を設計する。
事業計画
検証データをもとに、事業計画を策定する。 「顧客の声」「支払い意欲」「市場規模の推定」が揃っているため、説得力のある計画が作れる。
大企業特有の注意点
稟議のタイミング
「事業化の稟議」を出す前に、「検証の稟議」を出す。
検証の稟議は150万円。 事業化の稟議は3,000万円以上。
小さい稟議で検証を行い、検証データをもとに大きな稟議を通す。 この2段階のアプローチが、大企業では有効。
ブランドリスク
検証段階では社名を出さない。 匿名ブランド・別ドメインで実施し、正式サービスと誤認されないようにする。
人事異動対策
検証の結果を「事業判断レポート」として文書化しておく。 担当者が異動しても、レポートが残っていれば次の担当者がゼロからやり直す必要がない。
よくある失敗パターン
パターン1: アイデアソン→PoC→停滞
アイデアソンで100個出し、3つに絞り、PoCを開始。 技術的には動くものができた。 だが「顧客が欲しいか」がわからない。
PoCの前に仮説検証を入れる。
パターン2: 市場調査→戦略策定→停滞
コンサルに500万円で市場調査と戦略策定を依頼。 立派な報告書ができた。 だが「具体的に何をすればいいか」がわからない。
戦略策定の後に仮説検証を入れる。
パターン3: 自力で検証→半年経過→停滞
社内メンバーで仮説検証を開始。 他業務と並行するため、インタビューが月1件のペース。 半年経っても判断が出ない。
期間を区切る。6週間に集中して、判断を出す。
FAQ
新規事業のアイデア出しはどうすればいいか
この記事のスコープ外だが、アイデアの量より「検証の速さ」が重要。100個のアイデアを出すより、3個のアイデアを6週間で検証する方が事業は前に進む。
新規事業の成功率はどのくらいか
一般的に10-20%と言われる。だが「成功率を上げる」よりも「失敗のコストを下げる」方が実効的。6週間・150万円で判断を出せれば、No-Goでも失敗のコストは低い。
新規事業の進め方で最も重要なことは何か
「顧客に聞くこと」。社内で議論する時間の10%でいいから、顧客と話す。課題が本物かどうかは、顧客にしかわからない。
外部パートナーは必要か
必須ではない。ただし、仮説検証のプロセス(インタビュー設計、プロトタイプ制作、N1分析)には専門性がある。社内に経験者がいない場合、外部パートナーの活用で検証の質と速度が上がる。
いくらかかるか
自力なら人件費のみ(ただし5-6ヶ月かかる)。仮説検証スプリントなら150万円〜/6-8週間。コンサルなら500万円〜/2-6ヶ月。
LITMUSは、新規事業の仮説検証に特化したスタジオです。アイデアの段階から、6週間で事業判断を出す。