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新規事業の撤退判断 —「やめる」に根拠を持たせる方法

新規事業で最も難しい判断は「やめる」だ。

「Go」は簡単。希望がある。 「Pivot」もまだいい。方向を変えるだけだ。

だが「No-Go」、つまり撤退。 これを言い出せる人は少ない。

なぜか。 「やめる根拠」がないからだ。

「なんとなくうまくいかなそう」では、撤退の稟議は通らない。 「ここまで投資したのだから」という埋没費用の論理が勝つ。

結果、誰もやめると言えないまま、PoC が3回、4回と繰り返される。

PoCで終わらない。PoC疲れの3つの原因と処方箋

この記事では、「やめる」に根拠を持たせる方法を書く。


撤退判断が出ない3つの原因

原因1: 終了条件を決めていない

検証を始める前に「何がわかったら撤退するか」を決めていない。

「やってみて考えよう」で始めると、どこまでやっても判断が出ない。 データが出ても「もう少しやれば変わるかもしれない」と続いてしまう。

原因2: 埋没費用の罠

「すでに300万円使った」「半年かけた」「3人アサインしている」。

投資した分を回収したいという心理が、撤退を妨げる。 だが、過去の投資は将来の成功を保証しない。

300万円使って「やめるべき」とわかったなら、その300万円は「3,000万円の失敗投資を防いだ」投資だ。

原因3: 「やめる」が個人の評価に直結する

大企業では、新規事業の撤退が担当者の評価に響くことがある。

「やめた」=「失敗した」と見なされる文化。 これでは、誰もNo-Goと言えない。

撤退判断に必要なのは、組織文化の変革ではなく、「やめる根拠」を稟議資料として形にする技術だ。


撤退基準の設定方法

検証を始める前に、以下の3つを決める。

1. Go条件

「何がわかったらGoするか」を具体的に定義する。

例:

  • 「ターゲット5名中3名以上が課題を確認」
  • 「プロトタイプに対して『金を払う』と明言した人が2名以上」
  • 「月額○万円の支払い意欲が確認できた」

2. No-Go条件

「何がわかったら撤退するか」を具体的に定義する。

例:

  • 「ターゲット5名中、課題を確認できたのが1名以下」
  • 「プロトタイプに対する反応が『便利そう』止まり(支払い意欲なし)」
  • 「既存の代替手段で十分と回答が3名以上」

3. Pivot条件

「何がわかったら方向転換するか」を定義する。

例:

  • 「想定と異なるセグメントに強いニーズが確認できた」
  • 「課題は存在するが、解決策の方向性が異なる」
  • 「BtoB想定だったが、BtoCの方がニーズが大きい」

6週間で撤退判断を出すプロセス

仮説検証スプリントでは、6週間で Go / No-Go / Pivot を出す。

Week 1: 仮説と終了条件の設定

検証すべき仮説を整理し、Go / No-Go / Pivot の条件を事前に合意する。

重要なのは「事前に合意する」こと。 検証後に終了条件を決めると、結果に合わせて条件を変えてしまう。

Week 2-3: 顧客インタビュー

ターゲット3-5名に、課題の深さと頻度を確認する。

ここで「課題が存在しない」とわかったら、No-Goの根拠になる。 逆に「想定と違う課題が出てきた」なら、Pivotの材料になる。

Week 3-4: プロトタイプ制作

インタビューで確認した課題に対する解決策を、3-5日でプロトタイプにする。

AIプロトタイピングで検証を加速する

Week 4-5: ユーザー検証

プロトタイプを顧客に見せて、反応を確認する。

  • 「これは欲しい。いくらか」→ Go
  • 「便利そうだけど、今のやり方で十分」→ No-Go
  • 「これじゃないけど、こういうのなら欲しい」→ Pivot

Week 6: 判断レポート

Go / No-Go / Pivot の判断を、根拠とともにレポートにまとめる。


No-Go判断の稟議での伝え方

「No-Go」を稟議で説明する際のフレーム。

フレーム: 「失敗」ではなく「判明」

「検証の結果、以下が判明しました」という構成にする。

NG: 「検証の結果、失敗しました」 OK: 「6週間の検証により、以下3点が判明しました」

  1. ターゲット顧客5名中、課題を確認できたのは1名のみ
  2. 既存の代替手段で対処できている顧客が4名
  3. 支払い意欲を示した顧客はゼロ

「上記の結果から、現段階での事業化はNo-Goと判断し、リソースの再配分を推奨します」

ポイント: 「何を学んだか」を必ず付ける

No-Go判断でも「学び」は残る。

  • この市場にはニーズがないことが確認できた
  • 想定セグメントは外れたが、別セグメントの可能性が見えた
  • 技術的には実現可能だが、顧客の優先度が低い

「6週間・150万円で、3,000万円の投資判断を回避できた」

この説明ができれば、No-Goは「失敗」ではなく「成果」になる。


「やめる」の価値

No-Goの判断には、Goと同等の価値がある。

間違った方向に3,000万円を投資することを防ぐ。 半年間のチームリソースを、より可能性の高い事業に振り向ける。 「この方向はダメだった」というデータが、次の事業開発に活きる。

大企業の新規事業が進まない最大の理由は「やめられない」ことだ。 やめる根拠を持つことが、実は前に進むための第一歩になる。

大企業の新規事業が進まない3つの構造と、6週間で動かす方法


FAQ

撤退判断はいつ出すべきか

検証開始前に「何がわかったら撤退するか」を決めておく。仮説検証スプリントなら6週間後。検証の途中で撤退基準を変えないことが重要。

撤退した事業を再開することはあるか

ある。市場環境の変化や技術の進化により、以前No-Goだった事業が成立する場合がある。ただし再開する際も、改めて仮説検証から始めるべき。過去のデータは古くなっている可能性がある。

撤退判断を担当者の評価に反映させないためには

「Go / No-Go / Pivot のいずれかの判断を出すこと」自体を成果とする評価制度が必要。判断を先送りにすることの方が、組織にとってはコストが高い。6週間で判断を出せたこと自体が評価対象。


LITMUSは、新規事業の仮説検証に特化したスタジオです。Go / No-Go / Pivot。6週間で判断を出す。判断を先送りにしない。

LITMUS — 仮説検証スタジオ