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リーンスタートアップを大企業で実践する方法

リーンスタートアップの原則は正しい。

Build-Measure-Learn。 仮説を立て、最小限のプロダクトを作り、顧客の反応を測定し、学習する。

エリック・リースが2011年に提唱してから、この考え方は世界中のスタートアップの標準になった。

だが、大企業では話が違う。

「最小限のプロダクト」を出す前に稟議が必要。 「顧客の反応を測定」する前にブランドガイドラインの承認が必要。 「学習して改善」する前に担当者が異動する。

リーンの原則は正しいのに、大企業の構造がそれを許さない。

この記事では、大企業の制約の中でリーンスタートアップを実践する方法を書く。


大企業でリーンが機能しない3つの制約

制約1: 稟議の壁

スタートアップなら、CEOの一声で「やってみよう」が通る。 大企業では、100万円の検証費用にも稟議が必要。

稟議を通すには「根拠」が必要。 だが根拠は検証しないと手に入らない。 検証するには稟議が必要。

この循環が、Build-Measure-Learnの最初のBuildを止める。

新規事業の稟議が通らない理由は「根拠」の不足

制約2: ブランドの壁

スタートアップなら、雑なランディングページでも出せる。 大企業では、社名を出す以上、品質基準がある。

「最小限の製品を市場に出す」がリーンの核心だが、大企業にとって「最小限」は「ブランドリスク」と同義になりがちだ。

制約3: 人事異動の壁

リーンのサイクルは、同じチームが仮説→検証→学習→改善を繰り返すことで機能する。

大企業では、半年〜1年で担当者が異動する。 異動のたびに文脈がリセットされ、同じ検証を最初からやり直す。

Build-Measure-Learnが「Build-異動-Build-異動」になる。


大企業でリーンを回す方法

方法1: 検証を「社外」に出す

大企業の制約の多くは「社内プロセス」に由来する。

検証を社外に出せば、稟議のスコープが小さくなり、ブランドリスクも回避できる。

具体的には:

  • 社名を出さない匿名ブランドで検証する
  • 別ドメイン・別ブランドでプロトタイプを出す
  • 「検証目的であり、正式サービスではない」と明示する

「検証にかかる費用」として150万円の稟議を通す。 3,000万円の事業化稟議ではなく、150万円の検証稟議。これなら通る。

方法2: 期間を区切る

リーンの問題は「いつまで回すのか」が不明確なこと。

大企業では「いつ判断が出るのか」を事前に示す必要がある。

仮説検証スプリント: 6週間で Go / No-Go / Pivot を出す。

Week 1: 仮説整理
Week 2-3: 顧客インタビュー
Week 3-4: プロトタイプ制作
Week 4-5: ユーザー検証
Week 6: 事業判断

6週間後に「やるべきか、やめるべきか、方向を変えるべきか」の答えが出る。 この明確さが、大企業でリーンを機能させる。

大企業の新規事業が進まない3つの構造と、6週間で動かす方法

方法3: 学習を「資産化」する

人事異動でチームが変わっても、学習が残るようにする。

具体的には:

  • 仮説検証の結果を「事業判断レポート」として文書化する
  • 顧客インタビューの記録を構造化して保存する
  • Go / No-Go / Pivot の判断根拠を明文化する

次の担当者が着任したとき、「前任者が6週間で検証した結果、ここまでわかっている」と渡せる資料。

これがあれば、異動のたびにゼロからやり直す必要がない。


リーンの原則を大企業向けに読み替える

Build → 「AIプロトタイプを3-5日で作る」

MVPを市場に出す必要はない。 検証用プロトタイプを顧客に見せて反応を確認するだけで十分。

生成AIを使えば、3-5日で「触れるレベル」のプロトタイプが作れる。 製品品質は不要。顧客が「これは欲しい」と言えるレベルで十分。

AIプロトタイピングで検証を加速する

Measure → 「N1分析で深く測る」

大規模なA/Bテストやアクセス解析は不要。 3-5名の顧客にインタビューし、課題の深さと支払い意欲を確認する。

統計的有意性ではなく、N1の深さで測る。

「5名中4名が同じ課題を挙げた。3名が月額○万円の支払い意欲を示した。」 このデータで十分、事業判断は出せる。

N1分析で新規事業の仮説を確信に変える方法

Learn → 「Go / No-Go / Pivot で判断する」

「学習しました。次のイテレーションに活かします」では、大企業では通用しない。

「学習した結果、Go / No-Go / Pivot のどれか」を明言する。

学習は判断のためにある。 判断が出ない学習は、学習ではなく先送りだ。

新規事業の撤退判断 —「やめる」に根拠を持たせる方法


大企業向けリーンの全体像

スタートアップのリーン:
Build → Measure → Learn → Build → Measure → Learn → ...(無期限)

大企業のリーン:
仮説整理(Week 1)→ 顧客インタビュー(Week 2-3)→ プロトタイプ制作(Week 3-4)→ ユーザー検証(Week 4-5)→ 判断(Week 6)

違いは2つ。 期間が決まっていること。 判断を出すこと。

リーンの精神(顧客に学ぶ)を維持しながら、大企業の制約(稟議・ブランド・人事異動)に適応させる。


FAQ

リーンスタートアップは大企業では使えないのか

原則は使える。ただし、スタートアップと同じやり方ではうまくいかない。稟議・ブランド・人事異動の制約に合わせてプロセスをカスタマイズする必要がある。特に「期間を区切る」「検証を社外に出す」「学習を資産化する」の3点が重要。

MVPを作るべきか

大企業の新規事業では、MVPの前に仮説検証が必要。MVPは「最小限の製品を市場に出す」ことだが、大企業では市場に出す前にブランドや品質の承認プロセスがある。検証用プロトタイプで「顧客が欲しいか」を確認してから、MVPの設計に進むのが現実的。

リーンキャンバスは書くべきか

書いてもいい。だがリーンキャンバスは「仮説の整理ツール」であり「検証ツール」ではない。キャンバスを書いた後に、顧客インタビューとプロトタイプ検証で仮説を確認する。キャンバスを書いて満足するのが一番のリスク。


LITMUSは、新規事業の仮説検証に特化したスタジオです。リーンの原則を大企業の制約に合わせて実行する。6週間で事業判断を出す。

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