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N1分析で新規事業の仮説を確信に変える方法

新規事業の仮説検証で、よくある誤解がある。

「1,000人にアンケートを取らないと根拠にならない」「統計的に有意でなければ稟議は通らない」。

これは間違いだ。新規事業の初期段階で必要なのは、統計的有意性ではない。「この課題は本当に存在する」という確信だ。

N1分析は、たった1人の深い声から、事業の方向性を見出す手法。大規模調査より速く、安く、そして深い。


N1分析とは何か

N1分析の「N1」は、サンプル数1を意味する。

マーケティングリサーチの文脈では、西口一希氏が提唱した「顧客起点マーケティング」の中核概念として知られている。1人の顧客を深く理解することから、事業の方向性を導き出す手法だ。

従来のリサーチが「広く浅く」なら、N1分析は「狭く深く」。

1,000人に「はい/いいえ」で聞くより、1人に「なぜ?」「具体的には?」「それでどうした?」と掘り下げる方が、事業判断に使えるインサイトが出る。


なぜ新規事業にN1分析が有効なのか

理由は3つある。

1. 新規事業に大規模データは存在しない

既存事業なら、顧客データ、購買履歴、NPS、解約率。分析に使えるデータがある。

新規事業にはそれがない。まだ顧客がいないからだ。存在しないデータを使った統計分析はできない。できるのは、少数の潜在顧客に深く聞くことだけ。

2. 「なぜ」は数字に出ない

アンケートで「この課題に困っていますか?」と聞けば、「はい: 73%」という数字が出る。だが、「なぜ困っているのか」「どれくらい深刻なのか」「今どう対処しているのか」は、数字には出ない。

事業判断に必要なのは「73%が困っている」ではなく、「なぜ困っていて、いくら払ってでも解決したいか」。これはインタビューでしか取れない。

3. 1人の深い声がパターンを代表する

5名にインタビューすると、3-4名が似た課題を語ることが多い。そして、その中で最も具体的に語った1人の声が、残り全員の課題を最もよく説明する。

これがN1分析の核心だ。1人の深い理解が、多数の課題パターンを代表する。


N1分析の実践手順

Step 1: 仮説を立てる

インタビューの前に、検証したい仮説を明文化する。

「〇〇業界の△△担当者は、□□という課題を抱えている」。

この仮説が正しいかどうかを確認するのがインタビューの目的だ。仮説なしにインタビューすると、雑談で終わる。

Step 2: インタビュー対象者を選ぶ

N1分析の質は、対象者の選定で決まる。

「誰でもいい」ではない。仮説に合致する属性の人を選ぶ。BtoB専門家なら、業界・役職・企業規模を絞る。「大手メーカーの新規事業部門で、PoC経験がある人」のように具体的に。

ビザスクやuniiリサーチなどのプラットフォームを使えば、条件に合う専門家へのアクセスは難しくない。

Step 3: 深く聞く

表面的な質問をしない。

「課題はありますか?」→ 「はい」。これでは何もわからない。

「最後にこの課題で困ったのはいつですか?」→ 「先月、〇〇のプロジェクトで…」。ここから掘り下げる。

「そのとき、どう対処しましたか?」 「その対処法の問題点は何ですか?」 「理想的にはどうなっていてほしかったですか?」

1つのエピソードを15-20分かけて掘り下げる。ここにインサイトがある。

Step 4: パターンを見つける

5名のインタビューが終わったら、共通するパターンを整理する。

  • 5名中何名が同じ課題を語ったか
  • 課題の深刻度に差はあるか
  • 対処法に共通点はあるか
  • 最も具体的に語った1名は誰か

この「最も具体的に語った1名」がN1だ。その人の声を中心に、事業の方向性を組み立てる。

Step 5: N1の声で仮説を更新する

インタビュー前の仮説と、インタビュー後に見えた現実。差があるはずだ。

「想定していた課題はあったが、深刻度は想定より低かった」 「想定外の課題が見つかった。こちらの方が深刻」 「課題はあるが、対処法に満足している。乗り換える動機がない」

仮説を更新する。これが検証だ。


N1分析でよくある失敗

失敗1: 聞きたいことだけ聞く

「課題がある」という回答を引き出そうとする誘導質問。「この課題は深刻ですよね?」と聞けば、「はい」と答える。これは検証ではなく確認バイアスだ。

対策: オープンクエスチョンを使う。「はい/いいえ」で答えられない質問をする。

失敗2: 未来の行動を聞く

「このサービスがあったら使いますか?」と聞いてしまう。顧客は「使います」と答える。だが、実際には使わない。未来の行動予測は当てにならない。

対策: 過去と現在の行動を聞く。「今どうしていますか?」「先月何をしましたか?」

失敗3: 深掘りが足りない

最初の回答で満足してしまう。「困っています」→ 「なるほど」で次の質問に移る。これでは表面しか見えない。

対策: 「具体的には?」「それはなぜ?」「いつから?」を繰り返す。最低3回は掘り下げる。


N1分析の成果を稟議に使う

N1分析の結果は、以下の形で稟議書に反映できる。

課題の実在性: 「5名中4名が同じ課題パターンを語った。最も深刻なケースでは月40時間の工数を費やしている」

顧客の言葉: 「〇〇社の△△氏: 『この作業は毎月の苦痛。解決策があれば年間300万円は妥当』」

仮説の更新: 「当初想定していた課題Aより、インタビューで発見した課題Bの方が深刻。ターゲットを課題B起点に修正」

数字とエピソードの組み合わせ。これが稟議を通す根拠になる。


まとめ

N1分析は、新規事業の初期検証に最適な手法だ。

  • 大規模調査は不要。3-5名で十分
  • 「はい/いいえ」ではなく「なぜ?」「具体的には?」を聞く
  • 1人の深い声が、事業の方向性を示す
  • 統計的有意性より、課題パターンの発見が目的

1,000人のアンケートより、5人の深いインタビュー。これが新規事業の仮説を確信に変える。


LITMUSは、新規事業の仮説検証に特化したスタジオです。N1分析を含むインタビュー設計から実施、分析まで一気通貫で提供します。詳しくは LITMUS をご覧ください。