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新規事業の稟議が通らない理由は「根拠」の不足

新規事業の上申が否決される。

「面白いけど、もう少し検討して」「マーケットの裏付けが弱い」「本当にニーズがあるのか」。こう言われて持ち帰る。社内で議論する。市場調査レポートを追加する。もう一度上申する。また否決される。

このサイクルを2回以上繰り返しているなら、問題はアイデアではない。稟議書に載っている「根拠」の質だ。


経営層が本当に欲しいのは「顧客の声」

市場規模のデータは揃っている。競合分析もした。技術的な実現可能性も確認済み。それでも稟議が通らない。

なぜか。

稟議書に「顧客」が登場しないからだ。

「TAMは500億円」と書いてあっても、「この課題を抱えている人に実際に会ったのか」が書いていない。「競合はA社とB社」と整理しても、「顧客が今どう対処しているか」が書いていない。

経営層が「根拠が弱い」と言うとき、足りないのはデスクリサーチの量ではない。顧客に直接聞いた一次情報だ。


稟議に必要な3つの根拠

稟議を通すために必要な根拠は、3つに整理できる。

1. 課題の実在性

「この課題は本当に存在するのか」への回答。

デスクリサーチではなく、実際の顧客インタビューから得た声。「今この課題にどう対処しているか」「それにいくらかけているか」「どれくらい困っているか」。

3-5名のインタビューで、課題のパターンが見える。5名中4名が同じ課題を語ったなら、それは根拠になる。

2. 解決策への反応

「この解決策に顧客は価値を感じるか」への回答。

パワーポイントの説明ではなく、触れるプロトタイプを見せたときの反応。「これがあれば使う」「月いくらなら払える」「この機能は要らない」。

具体的な反応データは、稟議書に書ける。「8名中6名が『月額3万円なら導入したい』と回答」。これが根拠だ。

3. 実行可能性の裏付け

「これを実現できるのか」への回答。

技術検証だけでなく、実行計画。いつまでに、いくらで、何を作るか。最初のマイルストーンはどこか。Go判断後に何が起きるかが明確であること。


根拠が揃わない構造的な理由

多くの新規事業チームが根拠を揃えられないのは、能力の問題ではない。構造の問題だ。

時間がない。 本業と兼務で新規事業を担当している。インタビューのリクルーティングだけで2-3週間かかる。プロトタイプを作る技術リソースがない。

やり方がわからない。 顧客インタビューの質問設計。プロトタイプの粒度。検証データの整理方法。これらのスキルは、既存事業の業務では身につかない。

稟議のフォーマットが合っていない。 既存事業の稟議書フォーマットは、「確実性」を前提としている。新規事業に必要なのは「仮説の検証状況」を示すフォーマットだ。


根拠を揃えるための手順

Step 1: 仮説を4つに分解する

「顧客課題」「解決策」「収益モデル」「実現可能性」。この4つについて、「検証済み」「未検証」を明確にする。

Step 2: 最もリスクの高い仮説から検証する

多くの場合、最もリスクが高いのは「顧客課題」だ。顧客が本当に困っているかどうか。ここが崩れると、すべてが崩れる。

Step 3: 3-5名にインタビューする

BtoB専門家なら3-5名。1人30-45分。「この課題に今どう対処しているか」を聞く。パターンが見えたら次に進む。

Step 4: プロトタイプを作って反応を取る

インタビューで得た課題に対する解決策を、触れる形にする。完成度は問わない。反応が取れればいい。

Step 5: 事業判断レポートにまとめる

「誰の」「どんな課題を」「どう解決し」「顧客はどう反応したか」。この4つが1枚にまとまっていれば、稟議書の根拠セクションは書ける。


6ヶ月塩漬けのアイデアが、6週間で稟議を通った例

ある大手メーカーの新規事業部門。アイデアが6ヶ月間、塩漬けになっていた。「顧客の声がない」と、上申が2回否決されていた。

この状況から6週間で、以下が変わった。

  • 8名のインタビューで課題パターンと「欲しい」の声を取得
  • AIで制作したプロトタイプに対する具体的な反応データを収集
  • 事業判断レポート+稟議資料で上申が通過

担当者の言葉。「調査会社の1/3の期間と費用で、稟議に必要な材料がすべて揃った」


まとめ

稟議が通らないとき、アイデアを変える必要はない。根拠を変える。

必要なのは、市場調査レポートの追加ではない。顧客の声、プロトタイプへの反応、検証データ。この3つが揃えば、稟議書の説得力は根本的に変わる。


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