共感マップの作り方 — 顧客理解を「仮説」から「確信」に変える
「顧客のことは理解している」。
新規事業のチームで、この前提が共有されていることがある。だが、チームメンバー一人ひとりに「顧客はどんな課題を抱えているか」を聞くと、それぞれ違う答えが返ってくる。
顧客理解がバラバラなまま進むと、プロダクトの方向性がブレる。「このペルソナはこう思うはずだ」「いや、違うだろう」。社内の議論が、顧客不在のまま堂々巡りする。
共感マップ(Empathy Map)は、この問題を解決するツールだ。顧客が何を考え、何を感じ、何を言い、何をしているかを一枚に整理する。チームの顧客理解を「見える化」し、認識を揃える。
ただし、共感マップを想像だけで埋めると、ただの妄想マップになる。この記事では、顧客インタビューのデータに基づいた共感マップの作り方を解説する。
共感マップとは何か
共感マップは、XPLANEのデイヴ・グレイが考案したフレームワークだ。顧客の内面と外面を4つの象限で整理する。
4つの象限
- Says(言っていること): インタビューや会話で、顧客が実際に口にした言葉
- Thinks(考えていること): 顧客が内心で考えていること。口には出さないが、行動から推測できること
- Does(やっていること): 顧客の実際の行動。日常業務でどんな作業をしているか
- Feels(感じていること): 顧客の感情。何にストレスを感じ、何に喜びを感じるか
2つの追加要素
- Pains(痛み): 顧客が抱えている具体的な困りごと、障害、リスク
- Gains(得たいもの): 顧客が求めている成果、望み、ゴール
シンプルなフレームワークだが、正しく使えば強力だ。問題は「正しく使う」の部分にある。
共感マップの「間違った」作り方
間違い1: 会議室で想像だけで埋める
最もよくある失敗。チームで会議室に集まり、「顧客はこう思っているはずだ」と付箋を貼っていく。
これは共感マップではなく「想像マップ」だ。チームの思い込みを可視化しただけで、顧客の実態とはズレている可能性が高い。
想像で作った共感マップに基づいて解決策を設計すると、「顧客が本当に欲しいもの」からどんどん離れていく。
間違い2: 一般論で埋める
「顧客は業務効率化を求めている」「コスト削減が課題だ」。こうした一般論で共感マップを埋めても、解決策の設計には使えない。
「どの業務の、どのステップが、どれくらい非効率か」「コストの何が、いくら削減できれば嬉しいか」。この粒度まで落とさないと、プロダクトの方向性は決まらない。
間違い3: 一度作って終わりにする
共感マップは「完成品」ではない。仮説を可視化するツールだ。
顧客インタビューを重ねるたびに、共感マップは更新される。最初のバージョンと5人目のインタビュー後のバージョンでは、内容が大きく変わっているのが正常だ。
共感マップの「正しい」作り方 — 5つのステップ
ステップ1: まず「仮説版」を作る
最初は想像で作っていい。ただし、それを「仮説」として扱う。
チームで30分のワークショップを行い、4つの象限をそれぞれ付箋で埋める。このとき、「これは仮説であって事実ではない」と全員が認識していることが重要だ。
仮説版の共感マップは、次のステップ(顧客インタビュー)で「何を確認すべきか」を設計するための叩き台になる。
ステップ2: インタビューで「事実」を集める
仮説版の共感マップをもとに、インタビューの質問を設計する。
各象限に対応する質問例:
Says(言っていること)を確認する質問:
- 「この業務について、周囲にどう説明していますか?」
- 「上司や同僚に、何と相談していますか?」
Thinks(考えていること)を探る質問:
- 「この業務で、最も気を遣っていることは何ですか?」
- 「理想的な状態を想像すると、今と何が違いますか?」
Does(やっていること)を確認する質問:
- 「その作業を、具体的にどう進めていますか?手順を教えてください」
- 「その課題に、今はどう対処していますか?」
Feels(感じていること)を探る質問:
- 「その作業をしているとき、どんな気持ちですか?」
- 「最もストレスを感じる瞬間はいつですか?」
→ ユーザーリサーチとは — 新規事業における調査手法の使い分け
ステップ3: インタビューデータで共感マップを更新する
インタビューが終わったら、得られた情報を共感マップに反映する。
ここで重要なルールがある。「顧客が実際に言った言葉」をそのまま使う。 自分の解釈に変換しない。
例:
- NG: 「コスト削減に関心がある」(自分の解釈)
- OK: 「月末の精算作業が2日かかっていて、もう嫌になる」(顧客の言葉)
顧客の生の言葉を使うことで、共感マップの解像度が上がる。そして、チームメンバーがその言葉を読んだとき、顧客の状況をリアルに想像できるようになる。
ステップ4: 「Says」と「Does」のギャップを見つける
共感マップが最も価値を発揮するのは、象限間のギャップを発見したときだ。
特に重要なのが「Says(言っていること)」と「Does(やっていること)」のギャップ。
顧客が「業務効率化を重視しています」と言っているのに、実際には手作業でExcelを使い続けている。なぜか?
このギャップの中に、顧客自身も言語化できていない深層の課題がある。
- 変えたいが、新しいツールを導入する権限がない
- 変えたいが、今のやり方に慣れていて、移行コストが怖い
- 実は、今のやり方でそこまで困っていない(表面的に「困っている」と言っているだけ)
このギャップを掘り下げることで、解決策の設計に必要な深いインサイトが得られる。
→ カスタマージャーニーマップの作り方 — 新規事業の顧客体験を設計する
ステップ5: PainsとGainsを優先順位付けする
共感マップの下部にあるPains(痛み)とGains(得たいもの)を、優先順位付けする。
Painsの優先順位:
- 頻度: 毎日起きるのか、月1回なのか
- 深刻度: 業務が止まるレベルか、不便なレベルか
- 代替手段: 今の対処法で我慢できるか、限界に来ているか
Gainsの優先順位:
- 切実さ: 「あったら嬉しい」か「ないと困る」か
- 支払い意欲: お金を払ってでも得たいか
- 競合状況: 他に実現手段があるか
優先度の高いPainを解決し、優先度の高いGainを実現する解決策。これが、新規事業の方向性になる。
共感マップをチームで活用する
共感マップの真の価値は、チームの認識を揃えることにある。
活用法1: プロダクト方針の議論の起点にする
機能の優先順位を議論するとき、共感マップを壁に貼っておく。「この機能は、顧客のどのPainを解決するか?」「このGainに対応しているか?」。顧客不在の議論を防ぐことができる。
活用法2: 稟議の根拠資料として使う
共感マップに「顧客の実際の言葉」が載っていると、稟議の説得力が変わる。「顧客はこう言っている」は、「市場規模は〇兆円」よりも具体的な根拠になる。
活用法3: プロトタイプの設計指針にする
共感マップのPainsとGainsから、プロトタイプで検証すべきポイントが見える。「最も深刻なPainを解決する最低限の機能」がプロトタイプの要件になる。
→ ユーザーテストの進め方 — プロトタイプの反応を正しく読む
まとめ
共感マップは、正しく使えばチームの顧客理解を根本から変えるツールだ。
ポイントは3つ。
- 想像だけで埋めない。 インタビューデータに基づいて更新し続ける
- 顧客の言葉をそのまま使う。 自分の解釈に変換しない
- 象限間のギャップを探す。 特にSaysとDoesのギャップに深いインサイトがある
共感マップは完成品ではなく、仮説の可視化ツールだ。インタビューを重ねるたびに更新し、チームの顧客理解を「想像」から「確信」に変えていく。
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