ユーザーリサーチとは — 新規事業における調査手法の使い分け
「顧客のことは理解している」。大企業の新規事業担当者からよく聞く言葉だ。
だが、その理解の根拠を聞くと「営業が聞いた話」「業界レポート」「自分の経験」だったりする。それは理解ではなく、推測だ。
ユーザーリサーチとは、推測を事実に変えるための体系的な調査活動のこと。UXリサーチとも呼ばれる。顧客が何に困り、なぜ困り、どう対処しているかを、構造化された方法で明らかにする。新規事業の成否は、このリサーチの質で決まると言っていい。
定性調査と定量調査の使い分け
ユーザーリサーチは大きく2つに分かれる。定性調査と定量調査だ。
定性調査 — 「なぜ」を掘る
少数の対象者から深い情報を引き出す。代表的な手法はインタビュー、行動観察(エスノグラフィー)、ユーザーテスト。
目的は「なぜその行動をとるのか」「何に困っているのか」の構造を理解すること。数字では見えない文脈や感情が手に入る。
→ 顧客インタビューの進め方 — 準備から分析までの完全ガイド
定量調査 — 「どれくらい」を測る
多数の対象者からデータを集め、傾向や規模を把握する。代表的な手法はアンケート、アクセス解析、A/Bテスト。
目的は「この課題を抱えている人はどれくらいいるか」「どちらの案が成果を出すか」を数字で示すこと。
使い分けの原則
新規事業では、まず定性、次に定量が鉄則だ。
課題がまだ見えていない段階で1,000人にアンケートを取っても、的外れな質問に的外れな回答が返ってくるだけ。まず5人に深く聞いて課題の構造を掴み、その後にアンケートで規模感を確認する。順番を間違えると、リサーチ予算だけが消えていく。
新規事業フェーズ別のリサーチ手法
フェーズによって、聞くべき問いも手法も変わる。
探索期 — 「誰の、何が課題か」を見つける
まだ何を作るかも決まっていない段階。ここで必要なのは、顧客の現実を知ること。
| 手法 | 目的 | 所要時間 |
|---|---|---|
| デプスインタビュー | 課題の発見と深掘り | 1〜2週間 |
| エスノグラフィー | 現場の行動観察 | 1〜3日 |
| 日記調査 | 長期間の行動パターン把握 | 1〜2週間 |
この段階では仮説が曖昧でいい。「この業界の人は何に困っているのだろう」という問いから始める。
検証期 — 「この解決策で合っているか」を確かめる
課題仮説が固まり、解決策のプロトタイプがある段階。ここでのリサーチは、解決策の方向性を検証することが目的だ。
| 手法 | 目的 | 所要時間 |
|---|---|---|
| ユーザーテスト | プロトタイプへの反応確認 | 1〜2週間 |
| コンセプトテスト | 価値提案の受容性検証 | 3〜5日 |
| アンケート | 課題の規模感・優先度の定量化 | 1〜2週間 |
→ ユーザーテストの進め方 — プロトタイプの反応を正しく読む
成長期 — 「どう改善するか」を測る
PMFが見え始め、プロダクトを改善していく段階。ここでは定量データの比重が増える。
| 手法 | 目的 | 所要時間 |
|---|---|---|
| A/Bテスト | 施策の効果比較 | 1〜4週間 |
| NPS / CSAT | 顧客満足度の定量把握 | 継続的 |
| アクセス解析 | 行動データの分析 | 継続的 |
ただし、成長期でも定性調査は捨てない。数字が「何が起きているか」を教えてくれても、「なぜ起きているか」は教えてくれない。
主要な手法一覧
ユーザーリサーチの手法を一覧で整理する。
| 手法 | 種類 | 特徴 | 適するフェーズ |
|---|---|---|---|
| デプスインタビュー | 定性 | 1対1で60分、深い課題理解 | 探索期〜検証期 |
| グループインタビュー | 定性 | 複数名の議論から多様な視点を取得 | 探索期 |
| エスノグラフィー | 定性 | 現場に入り込んで行動を観察 | 探索期 |
| ユーザーテスト | 定性 | プロトタイプを操作してもらう | 検証期 |
| アンケート | 定量 | 広く浅くデータを収集 | 検証期〜成長期 |
| A/Bテスト | 定量 | 2案を比較して効果を測定 | 成長期 |
新規事業の初期に最も使うのは、デプスインタビューだ。5名に深く聞けば、課題の80%は見えてくる。
大企業でリサーチが軽視される理由と対策
大企業の新規事業では、ユーザーリサーチが驚くほど軽視されている。理由は明確だ。
理由1: 「調査」より「実行」が評価される
大企業の人事評価は成果主義。「3ヶ月かけて顧客を調べました」は評価されにくい。「3ヶ月でプロダクトを作りました」は評価される。だからリサーチを飛ばしてプロダクト開発に入る。
対策: リサーチの成果を「学び」ではなく「事業判断の根拠」として報告する。「5名中4名がこの課題を月3回以上経験。年間コスト換算で1社あたり360万円」。これなら稟議資料に使える。
理由2: 外に出るのが面倒
社内会議は予定に入れやすい。顧客インタビューは相手のスケジュール調整、場所の確保、謝礼の処理と、手間がかかる。
対策: リクルーティングと謝礼処理を外部サービスに任せる。ビザスクやuniiリサーチを使えば、1週間で5名のインタビューをセットできる。
理由3: 「顧客に聞いても正解は出ない」という誤解
ヘンリー・フォードの「顧客に聞いたら速い馬が欲しいと言っただろう」を引き合いに出して、リサーチ不要論を唱える人がいる。
だが、ユーザーリサーチの目的は顧客に解決策を聞くことではない。顧客の課題と文脈を理解することだ。「速い馬が欲しい」の裏にある「もっと速く移動したい」を読み取るのが、リサーチの本質だ。
→ インタビュー分析の実践 — 発言を事業判断に変換する方法
まとめ
ユーザーリサーチとは、顧客を体系的に理解するための調査活動だ。
- 定性が先、定量が後。 課題の構造を掴んでから規模を測る
- フェーズに合った手法を選ぶ。 探索期はインタビュー、検証期はユーザーテスト、成長期はA/Bテスト
- 5名の深い声で80%がわかる。 大規模調査は初期段階では不要
- リサーチを飛ばすと、見当違いのプロダクトが出来上がる。 3ヶ月の開発をやり直すより、2週間のリサーチの方がはるかに安い
顧客の声を聞くのは、弱さではない。速さだ。
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