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インタビュー分析の方法 — 定性データから仮説を抽出する

インタビューは「実施」して終わりではない。むしろ、本番は実施後だ。

5名にインタビューして、「いい話が聞けた」「やっぱり課題はあった」で報告書を書く。これでは仮説検証にならない。感想文だ。

定性データを事業判断に使える仮説に変換するには、分析の方法論が必要になる。属人的な「なんとなくの理解」ではなく、再現可能なプロセスで。


なぜインタビュー分析が軽視されるのか

大企業の新規事業部門でよく見る光景がある。

インタビューを5名実施。翌週の会議で「顧客は〇〇に困っているようです」と報告。上司が「それで?」と聞く。「もう少し調べます」で終わる。

原因は明確だ。インタビューの「実施」にはリソースを割くが、「分析」にはほとんど時間をかけていない。録音を聞き返さず、メモだけで結論を出している。

分析なきインタビューは、データなき意思決定と同じだ。


分析の4ステップ

Step 1: 書き起こし — 生の声をデータ化する

録音を文字に起こす。全文である必要はないが、顧客の発言はそのまま残す。

「月末に3日間は発注書の確認だけで終わります」。これが生データだ。「発注業務に課題がある」ではない。後者はあなたの解釈であり、データではない。

書き起こしの目的は、解釈と事実を分離すること。顧客が実際に言った言葉だけを残す。

生成AIの文字起こしツールを使えば、1時間のインタビューを10分程度でテキスト化できる。ここは効率化すべきポイントだ。

Step 2: コーディング(ラベル付け)— 発言を分類する

書き起こした発言に、テーマごとのラベルを付ける。定性調査の世界ではこれを「コーディング」と呼ぶ。

例えば、5名分のインタビューから以下のようなラベルが出てくる。

  • 業務プロセスの非効率: 「同じデータを3つのシステムに手入力している」
  • 情報共有の断絶: 「営業が取ってきた情報が開発に伝わらない」
  • 意思決定の遅延: 「承認に2週間かかる。その間にタイミングを逃す」

ラベルは事前に決めすぎない。データから浮かび上がるテーマに沿って、帰納的につける。仮説に合致するラベルだけを付けると、確証バイアスに陥る。

仮説検証インタビューで聞くべき5つの質問

Step 3: パターン抽出 — 個別の声から構造を見出す

ラベル付けした発言を俯瞰し、パターンを探す。

ここで有効なフレームワークが2つある。

課題×深刻度マトリクス: 横軸に課題のカテゴリ、縦軸に深刻度(頻度×影響度)を取る。5名の発言をマッピングすると、「多くの人が高い深刻度で語っている課題」が浮かび上がる。これが事業機会だ。

代替手段マッピング: 各課題に対して、顧客が今どう対処しているかを整理する。「Excel で手作業」「外注に丸投げ」「諦めている」。代替手段の質が低い課題ほど、新しいソリューションの介入余地が大きい。

3名以上が同じパターンを示していれば、それは偶然ではない。

N1分析で新規事業の仮説を確信に変える方法

Step 4: 仮説の更新 — データで仮説を書き換える

分析の最終ゴールは、仮説の更新だ。

インタビュー前の仮説:「製造業の購買担当者は、発注書作成に課題を抱えている」

インタビュー後の仮説:「発注書作成よりも、発注後の納期管理に深刻な課題がある。月20時間の工数が発生し、既存ERPでは対応できていない」

仮説が変わらなかったとしたら、分析が足りないか、インタビューで聞くべきことを聞けていない可能性がある。

顧客インタビューの進め方 — 準備から分析までの完全ガイド


生成AIを活用した分析の効率化

生成AIは、定性データ分析の作業効率を大幅に引き上げる。

書き起こしの自動化: Whisper等の音声認識モデルで文字起こしを自動化。手作業で半日かかっていた書き起こしが、数十分で完了する。

コーディングの補助: インタビューテキストをLLMに投入し、発言の分類案を出させる。人間がゼロから読み込むより、AIの分類案をレビュー・修正する方が速い。

パターン候補の提示: 複数名のインタビューデータを一括で投入し、「共通するパターンを抽出せよ」と指示する。見落としていた共通点が浮かび上がることがある。

ただし、AIの出力を鵜呑みにしてはいけない。最終的な解釈と仮説の更新は、事業の文脈を理解している人間が行うべきだ。AIは「処理」を助けるが、「判断」は代替しない。

生成AIを新規事業開発に活用する方法


よくある分析の失敗

失敗1: 確証バイアス

最も多い失敗がこれだ。自分の仮説を裏付ける発言だけを拾い、矛盾する発言を無視する。

5名中1名が「ぜひ使いたい」と言えば、その発言を報告書の冒頭に置く。残り4名の「今のやり方で十分」は脚注に追いやる。これは分析ではなく、プレゼン資料の作り方だ。

対策: 仮説を否定する発言を先に整理する。反証データを意識的に集めることで、バイアスを抑制できる。

失敗2: サンプルの偏り

「たまたま課題意識の高い人ばかりに聞いてしまった」ケース。リクルーティングの条件が狭すぎると、特定の属性に偏る。

対策: 対象者の属性(企業規模、役職、業界)を意識的に散らす。全員が同じプロファイルなら、そのパターンが一般化できるか疑う。

失敗3: 発言の文脈無視

「月100万円払ってでも解決したい」という発言だけを切り取る。だが、文脈を見ると「仮にそういう状況になったら、の話ですけど」と前置きされている。

発言は、前後の文脈とセットで解釈する。切り取りは、事業判断を誤らせる。

共感マップの作り方 — 顧客理解を「仮説」から「確信」に変える


まとめ

インタビュー分析の4ステップ。

  1. 書き起こし — 顧客の生の言葉をデータとして残す
  2. コーディング — 発言をテーマごとに分類する
  3. パターン抽出 — 課題×深刻度マトリクスで構造化する
  4. 仮説の更新 — データに基づいて仮説を書き換える

インタビューを「いい話が聞けた」で終わらせない。定性データから仮説を抽出し、事業判断に使える形にする。それが分析の仕事だ。


LITMUSは、新規事業の検証に特化したスタジオです。インタビュー設計から実施、定性データ分析、仮説更新まで一気通貫で支援します。詳しくは LITMUS をご覧ください。