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TAM・SAM・SOMの算出方法 — 新規事業の市場規模の考え方

「市場規模は○兆円です」

新規事業の稟議書に、調査レポートから引っ張った数字をそのまま貼っていないだろうか。

経営層はその数字を見て、こう思っている。「で、うちはそのうちいくら取れるの?」

TAM・SAM・SOMは「市場がどれだけ大きいか」を示すためのツールではない。**「自社が現実的に取れる市場はどこか」**を構造的に示すためのフレームワークだ。

この記事では、3つの定義と関係性、算出のアプローチ、そして新規事業の稟議で使える実践的な考え方を解説する。


TAM・SAM・SOMの定義と関係性

TAM(Total Addressable Market)— 全体市場

その製品・サービスが対象とし得る市場全体の規模。地理的制約や自社のリソース制約を無視した、理論上の最大値。

例: 「日本国内の製造業向け購買管理ソフトウェア市場 — 年間3,000億円」

TAMは「夢の数字」だ。到達することはまずない。だが、事業の天井を示すために使う。

SAM(Serviceable Addressable Market)— 対象可能市場

TAMのうち、自社の製品・サービスが実際にアプローチできる範囲。地域、業種、企業規模、チャネルなどで絞り込んだ市場。

例: 「従業員500名以上の製造業で、既にERPを導入済みの企業向け — 年間800億円」

SAMは「自社の土俵」だ。戦う場所を定義する。

SOM(Serviceable Obtainable Market)— 獲得可能市場

SAMのうち、現実的に自社が短期〜中期で獲得できる市場シェア。営業力、ブランド認知、競合状況を考慮した数字。

例: 「初年度にリーチ可能な500社のうち、導入見込み50社 — 年間MRR 1,800万円」

SOMが「稟議で語るべき数字」だ。根拠のある、地に足のついた見込み。


算出の2つのアプローチ

トップダウン・アプローチ

市場全体の数字から出発し、フィルタをかけて絞り込む方法。

  • 調査レポートの市場規模(例: 3,000億円)
  • × 対象セグメント比率(例: 25%)
  • × 想定シェア(例: 1%)
  • = SOM: 7.5億円

調査レポートの数字は手に入りやすく、見栄えも良い。しかし、根拠が弱い。「なぜ1%のシェアを取れるのか」を説明できない。

ボトムアップ・アプローチ

顧客単位の積み上げで算出する方法。

  • 顧客が払える金額(例: 月額3万円)← インタビューで確認
  • × ターゲット企業数(例: 5,000社)← 条件で絞り込んだリスト
  • × 想定獲得率(例: 1%)← 営業実績やテストデータ
  • = SOM: 年間1,800万円

数字は小さくなる。だが、一つひとつに根拠がある。


新規事業ではボトムアップが正しい理由

トップダウンは既存事業や市場参入戦略の検討には有効だ。だが、新規事業の初期段階では、ボトムアップ以外の選択肢はない。理由は3つある。

1. 調査レポートの「市場」と自社の「市場」は違う

調査レポートが定義する市場カテゴリと、自社のサービスがカバーする範囲は一致しない。「SaaS市場 ○兆円」の数字には、自社のサービスと無関係な領域が大量に含まれている。

2. 顧客の支払い意欲が唯一の根拠になる

新規事業には実績データがない。唯一の根拠は、顧客インタビューで得た「この課題の解決に、これくらいなら払える」という生の声だ。

顧客インタビューの進め方 — 準備から分析までの完全ガイド

3. 経営層が信じるのは「積み上げ」の数字

「市場は3,000億円。1%取れれば30億円」では、経営層は動かない。「インタビューした5名中4名が月額3万円を許容。ターゲット5,000社の1%に導入で年間1,800万円」。後者の方が圧倒的に説得力がある。

仮説検証インタビューで聞くべき5つの質問


ボトムアップ算出の実践ステップ

ステップ1: 顧客インタビューで支払い意欲を確認する

最低5名のターゲット顧客にインタビューし、以下を聞く。

  • この課題の解決にお金を払うか
  • いくらなら妥当だと感じるか
  • 現在の代替手段にいくらかけているか

ステップ2: ターゲット企業数を算出する

業種、従業員規模、地域、既存ツールの利用状況などの条件で絞り込み、具体的な企業数を出す。公的統計やデータベースを使う。

ステップ3: 獲得率を保守的に設定する

初年度の獲得率は1〜3%が現実的だ。「10%取れる」という前提は、根拠がない限り使わない。

ステップ4: 3層の数字を整理する

  • TAM: 広義の市場全体(調査レポートの数字でよい)
  • SAM: ターゲット企業数 × 年間単価
  • SOM: SAM × 保守的な獲得率

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稟議での使い方と注意点

TAMは「天井」、SOMは「目標」として分けて伝える

TAMとSOMを混同して伝えると、「大きい数字で煽っている」と見なされる。TAMは市場の可能性を示すために使い、SOMで現実的な見込みを語る。この使い分けが重要だ。

算出根拠を必ず併記する

数字だけでは信頼されない。「この金額はインタビュー5名中4名の回答に基づく」「ターゲット企業数は経済産業省の統計から算出」など、根拠を併記する。

「検証済み」と「仮説」を明確に分ける

支払い意欲がインタビューで確認済みなら「検証済み」、獲得率が想定値なら「仮説(次フェーズで検証予定)」。この区別をつけるだけで、稟議の信頼性は格段に上がる。

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まとめ

TAM・SAM・SOMは、市場の大きさを誇張するための道具ではない。「自社が現実的に取れる市場」を構造的に示し、経営層の「で、いくら取れるの?」に答えるためのフレームワークだ。

新規事業では、トップダウンの夢の数字よりも、顧客インタビュー × 価格 × 企業数で積み上げたボトムアップの数字が武器になる。

小さくても根拠のある数字が、稟議を動かす。


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