ダブルダイヤモンドモデル — 発散と収束を使いこなす
「課題をちゃんと定義しないまま、解決策を議論している」。
新規事業の現場で、この状態は驚くほど多い。アイデアは出る。プロトタイプも作れる。だが、そもそも解くべき課題が正しいのかを確認していない。結果、誰も欲しがらないものを精緻に作り上げてしまう。
ダブルダイヤモンドモデルは、この問題に正面から向き合うフレームワークだ。「正しい課題」を見つけてから「正しい解決策」を見つける。当たり前に聞こえるが、この順序を守れているチームは少ない。
ダブルダイヤモンドとは何か
ダブルダイヤモンドは、2004年に英国Design Council(デザイン評議会)が提唱したデザインプロセスモデルだ。デザイン思考の実践的な構造として、世界中で広く参照されている。
名前の由来は、プロセスの形がひし形(ダイヤモンド)2つに見えること。最初のダイヤモンドで「正しい課題」を見つけ、2番目のダイヤモンドで「正しい解決策」を見つける。
各ダイヤモンドは「発散(Diverge)」と「収束(Converge)」の2つのフェーズで構成される。つまり、全体で4つのフェーズがある。
4つのフェーズ
フェーズ1: Discover(発見)— 発散
最初のフェーズは「広げる」。顧客の世界を幅広く探索する。
ここでやるべきことは、顧客インタビュー、行動観察、デスクリサーチ、ステークホルダーへのヒアリング。まだ「課題はこれだ」と決めつけない。先入観を捨てて、顧客が本当に困っていることを多角的に集める。
BtoBの新規事業なら、まず5名以上の顧客候補に会い、業務の実態と困りごとを聞く。「どの業務に、どれくらい時間がかかっているか」「今の対処法は何か」。具体的な事実を集める段階だ。
ポイントは量。この段階で選択肢を絞ってはいけない。
→ 顧客インタビューの設計と進め方 — 新規事業の仮説を検証する実践ガイド
フェーズ2: Define(定義)— 収束
集めた情報を整理し、解くべき課題を絞り込む。
Discoverで見えてきた顧客の声やデータを分析し、共通するパターンを抽出する。共感マップやアフィニティダイアグラムを使い、顧客の課題を構造化する。
このフェーズの成果物は「課題定義文(How Might We)」だ。「我々はどうすれば、〇〇な顧客の△△という課題を解決できるか」。この一文に、最初のダイヤモンドの成果が集約される。
ポイントは選択。発散で出てきた情報を全て追いかけるのではなく、最もインパクトが大きく、自社が取り組むべき課題を1つに絞る。
→ 共感マップの作り方 — 顧客理解を「仮説」から「確信」に変える
フェーズ3: Develop(展開)— 発散
課題が定まったら、再び広げる。今度は解決策のアイデアを大量に出す。
ブレインストーミング、アイデアスケッチ、アナロジー思考、他業界の事例研究。1つの「正解っぽいアイデア」に飛びつくのではなく、10個、20個のアイデアを並べる。
ここでの発散が浅いと、「最初に思いついた解決策」がそのまま事業案になる。それは往々にして、顧客ではなく自社の技術や既存事業の延長線上にあるアイデアだ。
→ アイデア創出の技法 — 新規事業のアイデアを量産する方法
フェーズ4: Deliver(実現)— 収束
最後に、アイデアを絞り込み、プロトタイプで検証し、実行に移す。
アイデアの中から最も有望なものを選び、プロトタイプを作り、顧客に触ってもらう。反応を見て、改善し、事業としての成立性を判断する。
このフェーズで重要なのは「速さ」だ。完璧なプロダクトを作る必要はない。検証したい仮説に対して、顧客が反応できる最低限のプロトタイプを作り、素早くフィードバックを得る。
→ プロトタイプの種類と使い分け — 目的に合った検証手法を選ぶ
発散と収束のリズムが重要な理由
ダブルダイヤモンドの本質は、4つのフェーズの名前ではなく「発散と収束を2回繰り返す」というリズムにある。
**最初のダイヤモンド(Discover → Define)**では、課題空間を探索する。「何が問題なのか」を広く調べ、「解くべき課題はこれだ」と絞り込む。
**2番目のダイヤモンド(Develop → Deliver)**では、解決策空間を探索する。「どう解決するか」を広く考え、「この解決策で行く」と絞り込む。
この「広げてから絞る」を2回やることが重要だ。1回目で「正しい課題」を、2回目で「正しい解決策」を見つける。課題の発散と収束を経ずにいきなり解決策を考え始めると、「間違った課題に対する正しい解決策」を作るリスクが高い。
新規事業での具体的な活用方法
活用法1: 仮説検証スプリントに組み込む
ダブルダイヤモンドを6〜8週間の仮説検証スプリントに当てはめると、以下のようになる。
- Week 1-2(Discover): 顧客インタビュー5-8名、市場リサーチ
- Week 3(Define): 課題の構造化、解くべき課題の選定
- Week 4-5(Develop): 解決策のアイデア出し、コンセプト設計
- Week 6-8(Deliver): プロトタイプ作成、顧客検証、事業判断
各フェーズの終わりに「発散を止めて収束する」判断ポイントを設けることで、プロジェクトが発散しっぱなしで終わることを防げる。
活用法2: デザインスプリントとの併用
Googleが体系化したデザインスプリント(5日間)は、ダブルダイヤモンドの後半——Develop(展開)とDeliver(実現)——を高速に回す手法と相性がいい。
前半のDiscover(発見)とDefine(定義)を事前の顧客インタビューで済ませておき、デザインスプリントの5日間でアイデア出しからプロトタイプ検証までを一気に進める。
→ デザインスプリントとは — 5日間で答えを出すフレームワーク
活用法3: 稟議のフェーズゲートとして使う
大企業では、Defineの完了時点とDeliverの完了時点を稟議のゲートに設定すると効果的だ。
- Defineゲート: 「顧客課題が特定できた。次のフェーズ(解決策の探索)に投資してよいか」
- Deliverゲート: 「プロトタイプ検証の結果、Go / No-Go / Pivotの判断材料が揃った」
各ゲートで判断を仰ぐことで、「2年間走り続けて、最後に失敗がわかる」というリスクを回避できる。
よくある失敗パターン
失敗1: 最初の発散(Discover)を飛ばす
最も多い失敗。「課題はわかっている」「市場調査は済んでいる」として、いきなりDevelopから始める。
だが、「わかっている」と思っている課題が、実は社内の思い込みであることは多い。Discoverを飛ばすと、最初のダイヤモンドが丸ごと欠ける。解くべき課題が間違っていれば、どれだけ優れた解決策を作っても意味がない。
最低でも3名の顧客インタビューを行い、「課題は本当に存在するか」を確認する。この手間を惜しむと、後工程で何倍ものコストがかかる。
失敗2: 収束せずに進む
発散は楽しい。アイデアが出る。可能性が広がる。だが、収束しないまま次のフェーズに進むと、チームが何を目指しているのかわからなくなる。
Defineで課題を1つに絞れない。Deliverでアイデアを3つも4つも同時に検証しようとする。結果、リソースが分散し、どの仮説も中途半端な検証で終わる。
収束のフェーズでは「選ばない勇気」が必要だ。10個のアイデアのうち9個を捨てる。その判断基準は「顧客の反応データ」であるべきで、「声の大きい人の意見」であってはならない。
失敗3: 2つのダイヤモンドを混ぜる
課題を探索しながら同時に解決策を考え始める。これは一見効率的に見えるが、「課題の定義」が甘くなる。
課題と解決策を同時に議論すると、「この解決策で解ける課題」に引っ張られる。技術ありきで課題を後付けする「ソリューション・イン・サーチ・オブ・ア・プロブレム」に陥る。
最初のダイヤモンドが終わるまで、解決策の議論は封印する。この規律がダブルダイヤモンドの価値を最大化する。
まとめ
ダブルダイヤモンドモデルの核心は、「発散と収束を2回繰り返す」というシンプルな構造にある。
- Discover(発見): 課題空間を広く探索する
- Define(定義): 解くべき課題を1つに絞る
- Develop(展開): 解決策を広く発想する
- Deliver(実現): 最有望な解決策をプロトタイプで検証する
最初のダイヤモンドで「正しい課題」を、2番目のダイヤモンドで「正しい解決策」を見つける。この順序を守るだけで、新規事業の打率は大きく変わる。
LITMUSは、新規事業の検証に特化したスタジオです。ダブルダイヤモンドの4フェーズを、6週間の仮説検証スプリントとして実行します。「正しい課題」の発見から「正しい解決策」の検証まで、一気通貫で伴走します。
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