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サービスデザインとは — 顧客体験を起点にしたビジネス設計

プロダクトは良い。機能も揃っている。なのに、使われない。

新規事業で繰り返されるこの現象の原因は、プロダクトそのものではなく「プロダクトの外側」にある。申し込みの導線が複雑。導入後のサポートが設計されていない。社内稟議を通すための情報が足りない。顧客がサービスに触れる体験の全体像が、そもそも設計されていない。

サービスデザインは、この問題に正面から取り組む手法だ。


サービスデザインとは何か

サービスデザインとは、プロダクト単体ではなく「顧客が体験する一連のプロセス全体」を設計対象とするアプローチだ。

たとえば、BtoB SaaSを開発するとき、画面のUIだけを設計するのではなく、顧客が課題を認知し、情報を集め、社内で検討し、導入を決定し、利用を開始し、定着するまでの全体を一つの「サービス」として設計する。

ポイントは「プロダクトは体験の一部にすぎない」という視点だ。顧客にとっては、営業との会話も、契約プロセスも、サポート対応も、全てが「そのサービスの体験」になる。


サービスデザインの5原則

サービスデザインの実践は、以下の5つの原則に基づく。

1. 人間中心(Human-centered)

サービスの利用者だけでなく、提供に関わる全てのステークホルダーの体験を考慮する。BtoB新規事業なら、エンドユーザーだけでなく、導入を決める管理者や、社内で承認する上長の体験まで設計対象に含む。

2. 共創(Co-creative)

顧客、開発チーム、営業、カスタマーサポート。異なる視点を持つ関係者が一緒に設計プロセスに参加する。設計者だけがデスクで考えるのではなく、体験を構成する全員が関わる。

3. 反復(Iterative)

一度で完成させようとしない。仮説を立て、プロトタイプを作り、検証し、改善するサイクルを繰り返す。この点は仮説検証の考え方と完全に一致する。

仮説検証とは — 新規事業の不確実性を下げる思考法

4. 連続性(Sequential)

サービスの体験を、時系列に沿った連続するアクションとして捉える。認知から定着まで、体験の「流れ」を途切れさせない設計が求められる。カスタマージャーニーマップは、この連続性を可視化するツールだ。

カスタマージャーニーマップの作り方 — 新規事業の顧客体験を設計する

5. 全体性(Holistic)

個別のタッチポイントではなく、サービスを取り巻く環境全体を視野に入れる。ビジネスモデル、組織体制、技術基盤、競合環境。これらが一体となって初めて、持続可能なサービスが成立する。


デザイン思考との違いと関係

デザイン思考とサービスデザインは、しばしば混同される。両者は重なる部分が多いが、焦点が異なる。

デザイン思考は「課題の発見と解決策のアイデア創出」に焦点がある。共感から始まり、試作と検証を通じて、顧客の課題を解決するソリューションを見つけるプロセスだ。

サービスデザインは「体験全体の設計と実装」に焦点がある。デザイン思考で見つけた解決策を、実際にサービスとして成立させるために、フロントステージからバックステージまでを含む体験の全体を設計する。

つまり、デザイン思考は「何を作るか」を見つけるプロセスであり、サービスデザインは「どう届けるか」を設計するプロセスだ。両者は対立するものではなく、デザイン思考の成果をサービスデザインで具現化する関係にある。

デザイン思考を新規事業に活かす方法 — 大企業で実践する5つのステップ


新規事業でサービスデザインが必要になる場面

場面1: プロダクトはできたが利用が定着しない

MVP検証を経て、プロダクトの基本機能は揃った。だが、トライアル後の継続率が低い。この場合、プロダクトの機能ではなく、オンボーディング体験やサポート体制に課題があることが多い。サービスデザインの視点で体験全体を見直すと、ボトルネックが見つかる。

場面2: 顧客の意思決定プロセスが複雑

大企業向けの新規事業では、導入までに複数の関係者が関与する。情報システム部門のセキュリティ審査、法務の契約確認、上長の稟議承認。これらのプロセスを「サービスの一部」として設計しないと、プロダクトが良くても導入に至らない。

場面3: 複数のチャネル・接点が絡む

Webサイト、営業、カスタマーサポート、メール、アプリ。顧客が複数のチャネルを行き来するサービスでは、チャネル間の体験の一貫性が重要になる。サービスデザインは、これらの接点を横断的に設計するフレームワークを提供する。


サービスブループリントの使い方

サービスデザインの代表的なツールが、サービスブループリントだ。顧客の体験と、それを支える組織の仕組みを一枚に可視化する。

フロントステージとバックステージ

サービスブループリントは、「視認線(Line of Visibility)」を境に2つの領域に分かれる。

フロントステージ: 顧客から見える部分。Webサイト、アプリのUI、営業担当との会話、メールでのやりとり。顧客が直接触れる全てのタッチポイントが含まれる。

バックステージ: 顧客からは見えない部分。社内のオペレーション、データ処理、承認フロー、外部パートナーとの連携。フロントステージの体験を成立させるための裏側の仕組みだ。

ブループリントの構成要素

サービスブループリントは、上から順に以下のレイヤーで構成される。

  1. 顧客の行動: 各フェーズで顧客が取る行動
  2. フロントステージ: 顧客に見えるサービス提供者の行動
  3. バックステージ: 顧客に見えない社内プロセス
  4. サポートプロセス: バックステージを支えるシステム・外部連携

新規事業での活用ポイント

新規事業の初期段階では、バックステージの設計が抜け落ちやすい。「このサービスを実際に運用するとき、誰が何をするのか」が設計されていないまま、フロントステージだけを作り込んでしまう。

サービスブループリントを作ることで、「この体験を実現するには、裏側でこのオペレーションが必要だ」「ここは自動化しないとスケールしない」といった運用上の課題が、事業化の前に見える。


まとめ

サービスデザインとは、プロダクト単体ではなく、顧客がサービスに触れる体験の全体を設計するアプローチだ。

5原則(人間中心・共創・反復・連続性・全体性)に基づき、フロントステージとバックステージの両方を含む一貫した体験を設計する。デザイン思考で見つけた「何を作るか」を、「どう届けるか」に変換するのがサービスデザインの役割だ。

新規事業において、プロダクトの完成度だけでは顧客の定着は得られない。申し込みから導入、定着までの体験全体を「一つのサービス」として設計することが、事業の成否を分ける。


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